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新潟地方裁判所 昭和63年(ワ)418号 判決

原告

株式会社甲山

右代表者代表取締役

甲山太郎

右訴訟代理人弁護士

兒玉武雄

被告

新潟県

右代表者知事

平山征夫

右指定代理人

笠原嘉人

外九名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金一四八九万三一〇〇円及びこれに対する昭和六三年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一本件は、原告が国土利用計画法(以下「法」という。)二三条一項に基づき、新潟県知事(以下「知事」という。)に対し原告を売主とする土地売買の届出をしたところ、知事から取引予定価格を引き下げるようにとの違法な勧告を受けた結果、知事の勧告価格に従って売買契約を締結せざるを得なくなったとして、原告が被告に対し国家賠償法一条一項に基づき、取引予定価格と勧告価格との差額を損害として請求した事案である。

二争いのない事実

1  原告は、不動産取引等を業とする会社であり、知事は、被告の代表者として法に基づく事務を行うものである。

2  原告は、別紙物件目録記載(一)及び(二)の土地(以下「本件(一)及び(二)の土地」という。)を株式会社朝芳組(以下「朝芳組」という。)から買い受けて宅地造成をして売り出すことを計画した。本件(一)及び(二)の土地は、その面積が法二三条二項一号イに定める二〇〇〇平方メートル以上であったことから、朝芳組と原告は、昭和六二年三月三日、法二三条一項に基づき知事に対し売買代金を一億四七八六万一二三〇円とする旨の土地売買の届出をした。

知事は、同月三〇日、法二四条一項の規定に基づく勧告をしない旨を通知した。

3  原告は、本件(一)及び(二)の土地及び別紙物件目録記載(三)及び(四)の土地(以下「本件(三)及び(四)の土地」といい、本件(一)及び(二)の土地と合わせて「本件土地」という。)のうち、一部を除きこれを一四区画に分割して分譲(以下「本件分譲」といい、分譲の対象となった土地を「本件分譲地」という。)することを計画し、分譲価格合計額を二億一二〇七万円と決定して、昭和六二年六月一五日、知事に対し、法施行規則二一条一項に基づく事前確認申請をした。

知事は、同年七月一〇日、原告の右確認申請に対し、売買価格が高額過ぎるとの行政指導を口頭で行った。このため、原告は、同年七月二〇日、右確認申請を取り下げ、確認申請書の返却を受けた。

4  原告は、右同日、別表一「届出に係る予定対価の額」欄記載のとおり本件分譲地における各区画の取引予定価格(以下「本件届出価格」という。)を決定した上、原告と別表一「譲受人」欄記載の一四名の本件分譲地の買受人は、法二三条一項に基づき、知事に対し土地売買の届出をした(以下「本件届出」という。)。

知事は、同年八月二八日、本件届出価格が法二四条一項一号の権利の相当な価額に照らし、著しく適正を欠き、周辺の地域の適正かつ合理的な土地利用を図るために著しい支障があるとして別表一「勧告額」欄記載の勧告価格以下に売買価格を引き下げることを勧告した(以下「本件勧告」という。)。

三争点

(本件勧告の違法性)

被告の知事が本件届出価格を法二四条一項一号の「権利の相当な価額に照らし、著しく適正を欠く」と判断したことに過誤があったか。

1 原告の主張

知事は、法二三条一項による届出がなされた場合、届出に係る土地に関する権利の移転の予定対価の額が法二四条一項一号の「権利の相当な価額に照らし、著しく適正を欠く」場合でない時は、同条の勧告をしてはならない義務を負っているところ、本件届出価格は、いずれも「権利の相当な価額に照らし、著しく適正を欠く」とはいえなかったのであり、それにもかかわらず同条の勧告をしたのは違法である。

被告が、本件分譲地の権利の相当な価額を算定するに際し、重要な資料とした二つの不動産鑑定書に重大な瑕疵があるなど、被告の価額算定に過誤があった。

2 被告の主張

被告は、本件勧告に当たり、多くの取引事例を収集し、本件分譲地を含む周辺土地の状態を把握するように努め、また、土地評価の専門家の意見を徴すべく原告提出に係る不動産鑑定書のほかに、二つの不動産鑑定を依頼し、これらの鑑定結果を踏まえて本件分譲地における各画地の権利の相当な価額を算定し、これを基にそれぞれの許容限度額を定めたところ、本件届出価額は、いずれも許容限度額を超えていたのであり、さらに、本件勧告に先立ち、新潟県土地利用審査会に本件勧告についての諮問を行ったところ、本件勧告に同意する旨の答申も得ているのであるから、被告の本件勧告には何らの違法性もない。

被告が本件分譲地の権利の相当な価額を算定するに際して用いた二つの不動産鑑定書に瑕疵はなかった。

第三争点に対する判断

一本件勧告に至る経緯等

前記争いのない事実に、〈書証番号略〉、証人白川恭治及び同吉岡俊の各証言、原告代表者尋問の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和六二年五月一一日、朝芳組から本件(一)及び(二)の土地を一億四七八六万円で購入し、また、同年七月二七日、亀田郷土地改良区から本件(三)及び(四)の土地を一三三万三二〇〇円で購入した。

2  原告は、本件土地のうち、実測面積2735.92平方メートルを別表一「区画番号」欄記載のとおり一四区画に分割して譲渡することを計画し、昭和六二年六月一〇日に着工し、土盛り、道路、側溝、水道及びガス管の敷設等の工事を施工して、同年七月末ころ分譲地を完成させた。本件分譲地における各画地の私道部分を除外した有効宅地部分の面積は、別表一「面積」欄の括弧内記載のとおりであり、本件分譲地の有効宅地部分の総面積は、2236.99平方メートルである。

3  原告は、昭和六二年六月一五日、本件分譲についての事前確認申請書を被告に提出し、被告は同日付けでこれを受理した。その内容は、本件分譲地の区画番号1の土地を一九九八万円、同2の土地を一八七五万円、同3ないし5の各土地を各一四二五万円、同6の土地を一四〇五万円、同7の土地を一二一八万円、同8の土地を一八三四万円、同9の土地を一五七二万円、同10ないし14の各土地を各一四〇六万円、合計二億一二〇七万円で売買するというものであった。

被告の企画調整部土地利用対策課指導係(以下「指導係」という。)の係員は、原告の事前確認申請について「権利の相当な価額に照らし、著しく適正を欠く」場合であるか否かの価格審査を行うために、本件土地の現地調査及び周辺地域における取引事例等の調査を行ったところ、原告の申請した分譲価格が周辺の取引事例と比較して高額であり、著しく適正を欠く場合に当たる可能性があると判断され、専門家である不動産鑑定士の意見を参考にするため、吉岡俊(以下「吉岡」という。)に本件分譲地のうち、区画番号11の土地(以下「本件対象地」という。)の評価額の算定を依頼した。

4  吉岡は、昭和六二年七月一日、本件分譲地の現地調査を行った上、本件分譲地周辺の取引事例地を調査するなどして、同月八日、同年六月一五日時点の本件対象地の有効宅地部分の権利の相当な価額が一平方メートル当たり七万一二〇〇円である旨鑑定評価し、その旨の鑑定評価書(以下「吉岡鑑定」という。)を作成して、同月九日、指導係に提出した。指導係の係員は、吉岡鑑定の中で引用された取引事例地と指導係が独自に検討している取引事例地の比較検討、鑑定過程の検討等を行った上、吉岡鑑定の内容に不合理な点はないものと評価してこれを採用し、これを基に本件分譲地の全画地のそれぞれの権利の相当な価額を算定した。そして、指導係の係員は、本件分譲地の各画地の権利の相当な価額から、被告において一律に適用している基準に基づき、右各画地の有効宅地部分の許容限度額を別表一「勧告額」欄括弧内記載のとおり、一平方メートル当たり八万二三五六円から八万九五九七円と算定した上、原告の事前確認申請における本件届出価格が右限度額を超え、著しく適正を欠くものであると判断した。指導係の係員は、原告に対し、同月一〇日、口頭で本件届出価格を右許容限度額まで下げるように求める価格修正指導を行った。

5  原告は、被告の右価格修正指導に納得せず、昭和六二年七月二〇日、事前確認申請を取り下げると共に、同日付けで新潟市に法二三条一項に基づき、別表一「届出に係る予定対価の額」欄記載のとおりを内容とする土地売買等届出書(以下「本件届出書」という。)を提出し、また、原告は、そのころ、北辰鑑定リサーチ有限会社(代表取締役伊藤正弘)に本件分譲地の不動産鑑定評価を依頼し、同会社は、同月二三日付けで、同月二〇日時点の本件対象地及び本件分譲地の区画番号1の土地の有効宅地部分の権利の相当な価額が一平方メートル当たりそれぞれ八万七七〇〇円及び一〇万円である旨の鑑定評価書(以下「伊藤鑑定」という。)を作成し、原告は、伊藤鑑定を新潟市に提出した。被告は、同月二七日、新潟市から送付された本件届出書及び伊藤鑑定を検討した結果、吉岡鑑定が、本件分譲地の周辺事例を採用して鑑定評価しているのに対し、伊藤鑑定は、本件分譲地から比較的遠方に離れた土地を多く採用していること、特に伊藤鑑定は、新潟市京王所在のいわゆる京王団地における取引事例、同市長潟二丁目における取引事例など本件分譲地と地域要因が大きく異なり、かつ価格水準の高い地域の取引事例を多く採用していたことなどを考慮し、伊藤鑑定を採用できないものと判断した。そして、被告は、同年八月一八日、原告に対し同年七月一〇日と同様の価格修正指導を行ったが、なおも原告がこれに応じなかったため、指導係の係員は、右価格修正指導の正当性を担保し、吉岡鑑定を検証するために、不動産鑑定士の浅妻軍治(以下「浅妻」という。)に対し、本件対象地の評価額の算定を依頼した。浅妻は、同年八月二四日、同年七月二〇日時点の本件対象地の有効宅地部分の権利の相当な価額が一平方メートル当たり七万一二〇〇円である旨鑑定評価し、その旨の鑑定評価書(以下「浅妻鑑定」という。)を作成して、指導係に提出した。

6  被告は、被告の原告に対する価格修正指導に合理性があるものと判断し、同年八月二四日、再度、原告に対し価格修正指導を行ったが、原告がこれに応じないため、本件勧告に先立ち、新潟県土地利用審査会に対し本件勧告についての諮問を行ったところ、同審査会は、同月二八日諮問どおりの勧告について同意する旨の答申したため、被告は原告に対し本件勧告を行った。原告は、本件勧告に従い、被告の主張する本件分譲地の各許容限度額で本件分譲を行った。

7  なお、原告は、平成二年七月、本件訴訟の証拠とする目的で不動産鑑定士の勝俣和昭(以下「勝俣」という。)に本件分譲地の不動産鑑定評価を依頼し、勝俣は、同年八月三〇日付けで、昭和六二年七月二〇日時点の本件対象地及び本件分譲地の区画番号1の土地の有効宅地部分の権利の相当な価額が一平方メートル当たりそれぞれ九万二〇〇〇円及び一〇万一〇〇〇円である旨の鑑定評価書(以下「勝俣鑑定」という。)を作成した。

二各鑑定の内容

次に、被告が本件勧告に際し参考として吉岡鑑定及び浅妻鑑定並びに被告が排斥した伊藤鑑定の内容を見ることとする。

なお、勝俣鑑定は、本件勧告時に存在しなかったので、本件勧告の違法性を判断する直接の資料となるものではないが、原告は、これを伊藤鑑定を補うものとして援用するので、念のため、その内容についても検討する。

1  吉岡鑑定

〈書証番号略〉及び証人吉岡の証言によれば、吉岡鑑定の内容は以下のとおりであることが認められる。

(一) 自然的位置及び地域概況

本件対象地は、JR新潟駅のほぼ南方約3.1キロメートルに位置し、周囲にはまだ空地も多く見受けられるが、一般住宅地としての熟成を高めている新興住宅地域に当たる。場所的には、新潟市街地の南方部ほぼはずれに近く、市街化区域の線引きの南はじでもある。しかし、JR新潟駅とは、通称弁天線によってまっすぐ直通しており、車の利用時間でもおよそ一〇分余りと近い距離にあって便利であることから、一般住宅が多く建築されてきている。弁天線沿いの商業地としての充実も急テンポで便利性が増大しており、熟成のテンポは、今後増々早まるものと推測される。近隣地域の範囲およそ半径一〇〇メートルの圏域がこれに該当しているが、この周囲は殆どがほぼ同等の類似地域である。地価の水準は、幅員六メートルの道路に接面する基準的一五〇ないし二〇〇平方メートルの標準的な画地で、3.3平方メートル当たり概ね二三万円前後にあるものと思われる。なお、都市計画に基づく用途地域は、第一種住居専用地域(建ぺい率五〇パーセント、容積率一〇〇パーセント)に指定されている。

(二) 本件対象地の個別的状況

(1) 形状(間口×奥行)

ほぼ長方形(10メートル×15.5メートル)

(2) 規模・地勢

規模は近隣地域内のほぼ標準

地勢は平坦

(3) 接面道路との関係

北側幅員約六メートル舗装私道より約0.2メートル高く接面する中間画地

(4) 供給処理施設

上水道、都市ガスあり

(5) 接近性の程度

山潟小学校まで道程約五五〇メートル

山潟中学校まで道程約一二〇〇メートル

バス停「長潟」まで道程約二〇〇メートル

(三) 最有効使用の判定

以上の地域分析及び個別的状況から判断して、中級の低層一般住宅の敷地として使用することが最有効使用であると判定する。

(四) 鑑定評価方式の適用と手順

鑑定評価に当たって、取引事例比較法を適用して求めた比準価格及び原価法を適用して求めた積算価格を関連づけて適正価格を決定した。なお、評価格決定に際しては、国土利用計画法に基づく地価調査基準地との比較検討を行った。

(1) 取引事例比較法

近隣地域又は同一需給圏内の類似地域において本件対象地と類似の不動産に係る多数の取引事例の中から別表二記載の事例地を選択採用し、その取引価格に事情補正及び時点修正を施し、規範性のあるものとした後、本件対象地と地域要因の比較を行って標準画地価格を求め、次に本件対象地の個別的要因を考慮して別表二記載のとおり比準価格を一平方メートル当たり七万一二〇〇円と求めた。

(2) 原価法

昭和五九年一月、一平方メートルあたり四万七六五〇円で売買された新潟市姥ケ山三丁目所在の幅員約六メートル舗装道路に接面する田及び雑種地1678.78平方メートルを素地事例として、これに事情補正(一〇五分の一〇〇)、時点修正(一〇〇分の一〇一)を施し、さらに本件対象地との地域要因等の比較(標準化一〇〇分の一〇〇、地域格差九六分の一〇〇、個別格差一〇〇分の一〇二)を行って、素地価格を一平方メートル当たり四万九一八〇円と算定し、これに造成工事費、資本利子、販売費及び一般管理費、開発利潤を積算し、道路等により潰地による減歩率で調整を加えるなどして、本件対象地の有効宅地価格を一平方メートル当たり八万〇一〇〇円と求めた。

(3) 国土利用計画法に基づく地価調査基準地との比較

地価調査基準地「新潟(県)三六」(〈番地略〉、価格時点昭和六一年七月一日、地積・形状は、二三一平方メートル・長方形(一対二)、接面道路北側幅員六メートル未舗装私道、地域概況は、中規模一般住宅が多い新興住宅地域)の標準価格一平方メートル当たり六万三〇〇〇円に、時点修正(一〇〇分の一〇〇)を施し、さらに本件対象地との地域要因等の比較(標準化九八分の一〇〇、地域格差一〇〇分の一〇〇、個別格差一〇〇分の一〇〇)を行って、本件対象地の規準価格を一平方メートル当たり六万四二九〇円とした。

(五) 試算価格の調整と鑑定評価額の決定

比準価格は、採用した取引事例がいずれも評価対象地の周囲にあってほぼ同等類似のもので、試算値の接近した事例を中心に決定されていることからすれば、実際の市場性を反映した妥当な価格であると認められる。積算価格についても規範的と認められる素地価格に造成費等を加算して求められており、原価として妥当な価格と判断される。ただ、近時住宅地の市場が一般にやや冷えており、実需に伴う取引が中心であって、販売価格においては原価よりむしろ市場価格にウエートをかけたものとなっている傾向からすれば、積算価格を試算する過程での開発者利潤を圧縮すべきものとも考える。地価調査の基準地の価格は地価の実勢から乖離していると認められるから参考に留める。

以上の検討の結果、比準価格をそのまま重視すべきものと考え、本件対象地の鑑定評価額を一平方メートル当たり七万一二〇〇円と決定した。

2  浅妻鑑定

〈書証番号略〉によれば、浅妻鑑定の内容は以下のとおりであることが認められる。

(一) 近隣地域の状況

本件対象地は、JR新潟駅の南南東方約三キロメートル、道程約3.5キロメートルに位置する。本件対象地が属する地域は、本件対象地を中心にみて、東約一〇〇メートル、西約一五〇メートル、南約一〇〇メートル、北約二〇〇メートルの範囲と把握される。

(1) 公法的規制条件

都市計画法の第一種住居専用地域、建ぺい率五〇パーセント以下、容積率一〇〇パーセント以下に指定されている。

(2) 道路の状況

駅前から南方へ通じた市道弁天線が縦の幹線道路であり、これに近隣地域南側で交差し東西に走る広域農道、北方の姥ケ山集落の中を東西に通じた県道、国道四九号線亀田バイパスが至近を通り、近くにはインターチェンジもある。これら幹線の県、市道から派生する一般生活道路も耕地整理された農道を基盤にしているため、縦横によく通じ、所々に無舗装の狭い私道もあるが、概ね良好である。

(3) 交通の状態

新潟駅まで市道弁天線を運行するバスの連絡があり、交通の状態は普通である。また、国道四九号線バイパスインターに近いため自動車の交通の便は良い。

(4) 自然的条件

平坦な地勢で、日照、通風等の自然的条件は普通であるが、地盤は弱い。

(5) 環境条件

新潟市の外延的な発展により、急速に住宅地として発展を遂げてきた地域に属し、特に市道弁天線沿いの商業施設がまだ規模的には小さいものの、充実してきており、最近は第二バイパス的な「外環状線」、新潟いわき縦貫高速自動車道路が近隣地域の南方、亀田町との間にインターチェンジが開設される予定であり、鳥屋野潟南側の大規模な環境整備の構想が発表される等との関連で、注目を集めている周辺地域に属する。こうした外部状況の中で近隣地域は、姥ケ山集落背後の新興住宅地域で、介在農地もまだ多く残され、宅地の中にも空地が比較的多く、主に一戸建て専用住宅地として利用されているが、小規模開発が介在しているため、住宅地としての品等、居住者の所得階層の点でやや劣る地域と目される。供給処理施設として上水道と都市ガスがある。

(6) 利便接近条件

バス停「長潟」まで約二五〇メートル、山潟小学校まで約五〇〇メートル、山潟中学校まで約1.2キロメートルある。買い回り品店舗は、弁天線沿い約三〇〇メートルにスーパーストアその他がある。周囲には、危険又は嫌悪施設等はない。

(7) 標準的使用

一画地の規模が二〇〇平方メートル内外、木造二階建て約一〇〇平方メートル規模の専用住宅としての使用がこの地域の標準的使用であり、将来もこの傾向は持続されていく地域と判断した。

(二) 本件対象地の個別的要因

本件対象地は、西側の市道から中央を東へ幅六メートルの舗装私道を通した全体一四区画からなる造成住宅団地の一つで、位置的にはほぼ中央、私道より約三〇センチメートル高く、北面間口約一〇メートル、奥行約一六メートルの長方形の平坦な宅地である。南側の宅地よりは若干低く、接面私道は、東端部の排水路で行き止まり、車返しが付いている。その他は、概ね近隣地域の標準的なものとなっている。

(三) 最有効使用の判定

一戸建て専用住宅の敷地としての使用と判定した。

(四) 評価

近隣地域の標準的画地について、取引事例比較法を適用して求めた比準価格と、原価法を適用して求めた積算価格を調整し、地価調査基準地標準価格を規準とした価格との均衡を図って標準画地価格を決定し、これと本件対象地の品等修正をして評価する。

(1) 取引事例比較法

近隣地域又は同一需給圏内の類似地域において本件対象地と類似の不動産に係る多数の取引事例の中から別表三記載の事例地を選択採用し、その取引価格に事情補正及び時点修正を施した上、本件対象地と地域要因の比較をおこなって標準画地価格を求め、次に本件対象地の個別的要因を考慮して別表三記載のとおり比準価格を一平方メートル当たり七万三四〇〇円と求めた。

(2) 原価法

昭和六二年五月に購入した本件(一)及び(二)の土地を素地事例として、これに事情補正(一一〇分の一〇〇)、時点修正(一〇〇分の一〇〇)を施し、さらに本件対象地との地域要因等の比較(標準化一〇〇分の一〇六)を行って、素地価格を一平方メートル当たり五万二九六八円と算定し、これに造成工事費、販売管理費等を積算し、道路等の潰地による減歩率で調整を加えるなどして、本件対象地の有効宅地価格を一平方メートル当たり七万九六〇〇円とした。

(3) 地価調査基準地との比較

地価調査基準地「新潟(県)三六」の標準価格一平方メートル当たり六万三〇〇〇円に、時点修正(一〇〇分の一〇二)を施し、さらに本件対象地との地域要因等の比較(標準化九五分の一〇〇、地域格差一〇〇分の一〇〇、個別格差一〇〇分の一〇〇)を行って、本件対象地の規準価格を一平方メートル当たり六万七六〇〇円とした。

(4) 試算価格の調整による標準画地価格の決定

比準価格は、近隣地域内の四事例から求めたもので、この地域が近時人気を高めているため、少しバラつきがあったものの、比較的格差率の少ない二事例を中心にした調整によって決定されており、市場を反映した適切な価格と判断される。他方、積算価格は、本件(一)及び(二)の土地の素地価格を基に直接法によって試算されたが、必要な補正を施したものの、判断要因が入り込んでいるため、やや精度が欠けるきらいがあるので、比準価格を採用した調整が妥当と判断し、標準画地の価格を一平方メートル当たり七万三四〇〇円と決定した。地価調査基準価格を規準とした価格は、六万七六〇〇円であり、右調整額とは均衡がほぼ保たれている。

(5) 鑑定評価額の決定

右(4)で決定した標準画地の価格に対して、本件対象地は、北向きの土地であり、近時、方位の選好性が特に高まってきているため、これを補正して本件対象地の価格を一平方メートル当たり七万一二〇〇円と鑑定した。

3  伊藤鑑定

〈書証番号略〉によれば、伊藤鑑定の内容は以下のとおりであることが認められる。

(一) 本件対象地及び区画番号1の土地の位置

本件対象地及び区画番号1の土地は、JR新潟駅の南方約3.2キロメートルに位置し、付近は、昭和四〇年代に既に宅地開発に着手され、一般住宅地化がなされたが、残存農地も少なく、ここ一〇年近く新規宅地開発はなく、宅地の稀少性が増大している。

(二) 近隣地域の状況

(1) 近隣の範囲

業務地域化が進んでいる弁天線沿いを除く弁天線の東側約七〇メートルから約二四〇メートル間の姥ケ山二丁目地内一帯と把握した。

(2) 近隣は、新潟駅南地区の最南端に位置する郊外の住宅地域であるが、新潟駅の南方約3.2キロメートルと中心部に近い地理的条件を備え、さらに、駅南口行き、古町行きのバス路線が充実しており、亀田バイパス、新潟バイパスを経由しての市中心部、郊外への利便性に優れ、新潟駅あるいは古町を中心として考えると、駅南地域にあっては、「新和」、「近江」、「女池」、「京王団地」、「江南」、「東明」の各地域と遜色のない好立地条件にある。近隣の北西約三〇〇メートル付近は、弁天線以南の弁天線に沿う「長潟・弁天橋通り、姥ケ山」の住宅地域の日常生活の利便施設であるスーパー、銀行等が集中するもので、また、近隣の西側至近の弁天線沿いには駅南の郊外バスターミナルがあり、小学校、保育所が約五〇〇メートル内外にあるなど、生活の便益性は優れている。近隣の南方約八〇〇メートルには、弁天線に直結する新潟外環状線新潟インター(仮称)が昭和七〇年(平成七年)供給開始を目途に事業化が進められているが、これは、今後、弁天線の発展に大きく寄与するものと予想され、背後地にあたる近隣付近も将来的には、その影響を受け、現在以上の相対的地位の向上につながると思料される。以上の点と近隣の現状用途の大半である一般住宅の状況を勘案して、標準的使用を約六メートル舗装道路に面する一五〇平方メートル程度の長方形の敷地に建てられた一戸建中級住宅と判定した。なお、公法上の規制は、都市計画法上、第一種住居専用地域(建ぺい率五〇パーセント、容積率一〇〇パーセント)の指定を受けており、供給処理施設としては、上水道、都市ガスがある。

(三) 本件対象地及び区画番号1の土地の個別的状況

(1) 個別的要因

バス停「長潟ターミナル」へ約二五〇メートル、最寄りスーパー「キューピット」へ約三五〇メートル、弁天線へ約三〇〇メートル、亀田バイパス「姥ケ山インター」へ約五五〇メートルの各距離がある。上水道、都市ガスがあり、雑排水は、道路側溝に放流する状態にある。

本件対象地は、北側約六メートルの舗装道路に約0.3メートル高く接面する間口10.72メートル、奥行15.5メートルの長方形の平坦な画地(規模166.16平方メートル)である。区画番号1の土地は、西側約7.3メートルの舗装道路、南側約六メートル舗装道路に約0.3メートル高く接面する間口約15.5メートル、奥行約14.3メートルのほぼ正方形の平坦な画地(規模約219.40平方メートル)である。

(2) 最有効使用

本件対象地及び区画番号1の土地は、一戸建の中級住宅の敷地として使用するのが、最有効である。

(3) 標準的画地との優劣

標準的使用の基盤をなす標準的画地(東側約六メートルの舗装道路に接面する一五〇平方メートル程度のほぼ長方形の画地)と比較すると、本件対象地は方位でやや劣り、区画番号1の土地は角地、方位で優れる。

(四) 鑑定評価方式の適用と鑑定評価額の決定

本件対象地及び区画番号1の土地の所在地の実情、類型から、鑑定評価方式を原価法及び取引事例比較法と判断して鑑定評価額を決定する。その際、地価公示価格等を規準とした価格との均衡に留意する。

(1) 原価法の適用

昭和六二年五月に購入した本件(一)及び(二)の土地を素地事例として、一平方メートル当たり五万四九六七円の実額を素地価格とし、これに造成工事費、金利、販売費及び管理費、開発者利潤(一割)を積算し、道路等の潰地による減歩率で調整を加えるなどして、造成後の平均画地の有効宅地価格を一平方メートル当たり八万七五〇〇円と算定し、右平均画地は、標準的画地と軌を一にすると判断し、積算による標準価格を右同額と査定した。

(2) 取引事例比較法の適用

別表四1、2記載のとおり、比準による標準価格は、一平方メートル当たり九万〇七〇〇円である。

(3) 地価公示価格を規準とした価格

別表四2「公示地」欄記載のとおり、規準による標準価格は、一平方メートル当たり七万九七〇〇円である。

(4) 試算標準価格の調整及び標準価格の決定

積算による標準価格と、比準による標準価格との差は、企業努力あるいは宅地の稀少性が増大している地域での開発効果が反映していると理解される。比準による標準価格は、規準による標準価格と比較し、13.8パーセント高いが、なお、均衡を保っている水準にあると判定される。よって、豊富な最近の適切な事例より導き出されて得た比準による標準価格を重視し、積算及び規準による標準価格も考慮して、標準価格を九万〇四〇〇円と決定した。

(5) 鑑定評価額の決定

右(4)で決定した標準価格を基礎に、本件対象地及び区画番号1の土地の個別的要因による修正(本件対象地は一〇〇分の九七、区画番号1の土地は一〇〇分の一一一)をして一平方メートル当たりの鑑定評価額を求めると、本件対象地が八万七七〇〇円、区画番号1の土地が一〇万円となる。

4  勝俣鑑定

〈書証番号略〉によれば、勝俣鑑定の内容は以下のとおりであることが認められる。

(一) 近隣地域の概要

本件対象地及び区画番号1の土地と価格形勢について同質性を有すると目される近隣地域は、区画番号1の土地が接面する市道沿いの両側の東西約七〇メートル、北側約一八〇メートル、南側約一二〇メートルの範囲と把握される。該地域は、新潟市市街化地域の最南端にある住宅地域であるが、新潟市の市街地は東西約二六キロメートルにわたって形成されており、最南端といえども新潟駅からわずか3.2キロメートルに過ぎず、バス路線の充実した弁天線にて新潟駅と直結する外、姥ケ山インターから亀田バイパス、新潟バイパスを利用して市街地中心部その他への交通接近条件に恵まれている。また、将来的には該地域の南方約五〇〇メートルに外環状線新潟インターの開設予定があり、これと弁天線が直結した暁には該地域の利便性は大いに増大するものと期待される。小・中学校、保育園や、路線商業的発展の急な弁天線沿いのスーパー、銀行等の商業施設とも近く、この面からの交通接近条件も良好である。

近隣地域は、市街化区域の南端にあり、調整区域内農地に隣接し、また、長潟本村に近いため集落隣接農地を温存しようとする農家の習性もあって一見農地が目立ち、開発の遅れた新興住宅地の感を抱かせるが、近隣地域を含む長潟集落以南の市街化区域については、昭和四〇年代から宅地化が始まり、昭和五五年ころまでにほぼ大半が開発され、昭和六二年七月二〇日の価格時点当時には住宅地としての熟成をみていた。そして価格時点以降は、集落内及び隣接農地を除けば市街化区域の残存農地も少なく、開発された分譲地は僅かしかない。これは、都市の外延的発展による宅地化、住宅化の波は価格時点以前に当市街化区域南端の地域まで達して、住宅地としての熟成をみせたが、調整区域に至ってその先への発展がストップした形となっているものである。

近隣地域の標準的使用は、六メートル舗装道路に接面する一五〇ないし二〇〇平方メートルの敷地に木造二階建一般住宅にある。

(二) 本件対象地及び区画番号1の土地の概要

(1) 位置

いずれもJR新潟駅の南方約3.2キロメートル、天理教北洋大教会近くに位置する。

(2) 交通接近条件

市道弁天線に約二五〇メートル、亀田バイパス、姥ケ山インターに約五五〇メートル、バス停・長潟(ターミナル)に約二五〇メートル、山潟保育園及び山潟小学校に約七〇〇メートル、山潟中学校に約一四〇〇メートル、スーパー「キューピット」に約三五〇メートル、銀行「第四銀行姥ケ山支店」に約六五〇メートル。

(3) その他

本件対象地及び区画番号1の土地は、いずれも更地であり、上水道及び都市ガスの供給処理施設があり、公的規制は、第一種住居専用地域である(建ぺい率五〇パーセント、容積率一〇〇パーセント)。本件対象地は、その北側に約六メートルの舗装私道があり、画地は、間口約一一メートル及び奥行約一六メートルの長方形で、地勢は平坦であり、路面より約0.3メートル高く、規模は166.16平方メートルである。区画番号1の土地は、その西側に約七メートルの舗装市道、南側に約六メートルの舗装私道があり、画地は、間口約一六メートル及び奥行約一四メートルのほぼ正方形で、地勢は平坦であり、路面より約0.3メートル高く、規模は219.40平方メートルである。

(三) 最有効使用の判定

本件対象地及び区画番号1の土地は、一戸建の中級住宅の敷地として使用するのが、最有効である。

(四) 鑑定評価方式の適用と鑑定評価額の決定

六メートル舗装道路に北面する一六五平方メートル程の中間画地を標準画地として設定し、取引事例比較法及び原価法を適用して求められた比準価格及び積算価格を関連付け、公示価格及び県地価調査価格を規準として評価した。

(1) 取引事例比較法

別表五1、2記載のとおり、比準による標準価格は、一平方メートル当たり九万三五〇〇円である。

(2) 原価法

昭和六二年五月に購入した本件土地を素地事例として、一平方メートル当たり五万四五七〇円の実額を素地価格とし、これに造成費用、資本収益、販売管理費を積算し、道路等の潰地による減歩率で調整を加えるなどして、積算価格を一平方メートル当たり八万九六〇〇円と算定した。

(3) 地価公示価格の標準地及び地価調査基準地を規準とした価格

標準地「新潟三一」の一平方メートル当たりの単価八万四〇〇〇円に、時点修正(一〇〇分の一〇三)、標準化補正(一〇〇分の一〇〇)、地域格差による補正(一〇三分の一〇〇)、個別格差による修正(一〇〇分の一〇〇)を施すと、規準価格は同額の八万四〇〇〇円となる。基準地「新潟(県)三六」の一平方メートル当たりの単価七万四五〇〇円に、時点修正(一〇〇分の一〇一)、標準化補正(一〇〇分の一〇〇)、地域格差による補正(八八分の一〇〇)、個別格差による修正(一〇〇分の一〇〇)を施すと、規準価格は八万五五〇〇円となる。

(4) 試算価格の調整及び鑑定評価額の決定

比準価格は、近隣地域及び周辺類似地域における取引事例の中から、規範性の高いものを豊富に採用して求めたものであり、時点修正、価格形成要因の秤量比較は適切に行われており、現実の取引に基づく、市場性を反映した実証的な価格として説得力に富む価格である。積算価格については、素地価格は、法の届出に係る適正な価格であり、実際要した造成費、付帯費用は標準的な額と判断され、事業期間、対投下資本収益率、販売費・一般管理費率も同規模、同品等の造成地のほぼ標準的なものを採用したもので、これも精度の高い価格であって、特に造成直後の本件対象地及び区画番号1の土地の評価に当たっては重視すべき価格である。比準価格が積算価格よりやや高めに求められたのは、近隣地域を含む長潟集落以南の市街化区域においては、既に開発がほとんど完了し、残存農地も僅かで住宅地として熟成をみていたために、市場における需給関係を反映して、比準価格が供給者たる積算価格を上回って導き出されたものと思料される。また、開発者の努力もある。

以上、両価格とも正常価格を指向するものとして等しく尊重し、さらに公示価格、県地価調査価格との均衡に十分考慮して総合的に比較調整し、標準価格を一平方メートル当たり九万二〇〇〇円と評価した。

(5) 鑑定評価額の決定

本件対象地は、右(4)で求めた標準画地に相当するから、一平方メートル当たり九万二〇〇〇円と決定し、区画番号1の土地は、個別的要因による補正(一〇〇分の一一〇)を施して、一平方メートル当たり一〇万一〇〇〇円と決定した。

5  各鑑定における取引事例法で採用された取引事例の関係

〈書証番号略〉、及び弁論の全趣旨によれば、①吉岡鑑定の取引事例a、伊藤鑑定の取引事例A及び勝俣鑑定の取引事例ホの各土地は、〈番地略〉外一筆の土地であること、②吉岡鑑定の取引事例bの土地及び勝俣鑑定の取引事例ロの取引は、〈番地略〉外三筆の土地であること、③吉岡鑑定の取引事例c、浅妻鑑定の取引事例B及び伊藤鑑定の取引事例Bの各土地は、〈番地略〉外二筆の土地であること、④吉岡鑑定の取引事例dの土地は、〈番地略〉の土地であること、⑤吉岡鑑定の取引事例e及び浅妻鑑定の取引事例Aの各土地は、〈番地略〉外一筆の土地であること、⑥吉岡鑑定の取引事例f及び勝俣鑑定の取引事例ハの各土地は、〈番地略〉の土地であることを認めることができる。

三本件勧告の違法性の有無について

1  違法性の判断基準

法二三条一項に基づく届出を受けた場合、都道府県知事としては、右届出に係る土地について、近傍類地の取引価格等を考慮して権利の相当な価額を算定した上で、右届出に係る土地に関する権利の移転又は設定の予定対価の額が、右権利の相当な価額に照らし、著しく適正を欠き、周辺の地域の適正かつ合理的な土地利用を図るために著しい支障があるか否かについて判断する必要がある。

そして、届出に係る土地の権利の相当な価額は、近傍類地の取引価格等を考慮するなどして、科学的、合理的に算定されるものであるが、このような不動産価格の評価の過程は、様々な諸条件を考慮に入れながら判断する高度に専門的、技術的なものであり、都道府県知事あるいは担当職員としては、場合によっては、専門家である不動産鑑定士に鑑定を依頼し、その判断に依拠せざるを得ない面があることは否定できない。ところで、不動産の権利の相当な価額は、本来、客観性のあるはずのものであるが、右のとおり、不動産価格の評価の過程が高度に専門的、技術的なものであるが故に不動産鑑定士の裁量に依拠するところが大きく、同じ土地について異なる不動産鑑定士に、権利の相当な価額の算定を求めた場合、その結果は必ずしも一致するものではない。したがって、本件のように、届出に係る土地の権利の相当な価額を算定するに当たって、異なる不動産鑑定結果が存在した場合には、各鑑定書の内容を比較し、鑑定方法の選択、取引事例の選定、地域要因の分析等が明らかに不合理で、不動産鑑定士としての裁量を著しく欠いた点がないかにつき検討し、必要な場合、別の不動産鑑定を徴するなどして、慎重に対処する必要性があると思われるが、かように複数の不動産鑑定を比較検討した結果、不合理であると判断された不動産鑑定を排斥し、その当時存在した合理性のある不動産鑑定等の資料に基づいて十分検討した上で、権利の相当な価額を算定したのであれば、都道府県知事らの判断には合理性があったものと評価してよいというべきである。

右のような過程で算定された権利の相当な価額に照らし、届出に係る土地に関する権利の移転又は設定の予定対価の額が著しく適正を欠き、周辺の地域の適正かつ合理的な土地利用を図るために著しい支障があるか否かについて判断する場合には、土地の投機的取引及び地価の高騰が国民生活に及ぼす弊害を除去し、かつ、適正かつ合理的な土地利用の確保を図るため、全国にわたり土地取引の規制に関する措置の強化が図られるべきと規定する法一一条の趣旨に従い、行政は、価格及び利用目的等から審査を行うことで土地取引について直接介入し、土地の投機的取引及び地価の高騰を未然に防ぐことを期待されているといえるから、都道府県知事は相当程度の裁量を有するものというべきである。

このように都道府県知事らの判断について合理性があり、法二四条に基づく勧告に関し、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用が認められない場合、右勧告の違法性は否定されるものというべきである。

2  吉岡鑑定及び浅妻鑑定の問題点

原告は、本件勧告に際し、被告の知事が依拠した吉岡鑑定及び浅妻鑑定に重大な瑕疵があったと主張するところ、前記のとおり、不動産価格の評価の過程が高度に専門的、技術的なものであることに鑑みると、不動産価格の鑑定は、不動産鑑定士の専門的鑑定技術に依拠せざるを得ず、これらの技術的事項は原則として当該不動産鑑定士の裁量に委ねられていると考えられるが、ただ、鑑定方法の選択、取引事例の選定、地域要因の分析等が明らかに不合理で、不動産鑑定士としての裁量を著しく欠いた場合に、当該不動産鑑定評価に瑕疵があると認めるのが相当であり、以下、右の観点から吉岡鑑定及び浅妻鑑定の内容を検討する。

(一) 吉岡鑑定

(1) 原告は、鑑定評価方式の適用に当たっては、必要にして十分な資料を備え、原価法、取引事例法及び収益還元法の三手法によって導き出される三価格は、いずれも等しく正常な価格を指向するものであるから、三価格の調整においては、いたずらにある価格を切り捨てて一の価格のみを採用する等の方法によるべきではなく、求められた価格の相違の理由を十分験証し、適用に誤りがなければ三価格は、等しく妥当性があるものとして尊重し活用すべきとされているところ(〈書証番号略〉、国土庁土地鑑定委員会建議書「国土利用計画法の施行に際し不動産の鑑定評価上とくに留意すべき事項について」)、吉岡鑑定は、原価法による積算価格を全く考慮せず、比準価格をそのまま評価額とした点に瑕疵がある旨主張する。

しかしながら、右建議書の趣旨は、取引事例比較法のみならず、原価法等の適用も行って、総合的に勘案して鑑定評価すべきであるというに過ぎず、結果的に積算価格が反映されていないからといって、当該鑑定が不当であるとは直ちにはいえないというべきである。そして、吉岡鑑定は、前記(二1(五))のとおり、住宅地の市場が一般的にやや冷え込んでおり、実需に伴う取引が中心であるという事情を考慮し、原価よりむしろ市場価格にウエートをかけて鑑定評価額を決定したものであり、積算価格を検討し、総合的に勘案した結果、比準価格を評価額としたものであるから、この点に関し吉岡鑑定が不合理であるとはいえない。

(2) 吉岡鑑定の原価法について

原告は、吉岡鑑定の原価法の適用に関し、同鑑定の資本利子の項目に記載された完売までの平均期間(二か月)が著しく短い旨主張するところ、〈書証番号略〉(なお、〈書証番号略〉について被告は、故意又は重大な過失に基づく時機に遅れた攻撃方法であるから、民事訴訟法一三九条により原告の右証拠申出を却下すべきである旨主張するが、その内容は、概ねこれまでの原告の主張の繰り返しに過ぎず、被告の防御の機会を奪うものでもなく、また、訴訟の完結を遅延させるものともいえないから、被告の右却下の申立ては理由がない。)及び証人勝俣の証言中には、右主張に沿う記載ないし供述部分もある。しかしながら、証人吉岡の証言及び弁論の全趣旨によれば、吉岡は、本件のように約三〇〇〇平方メートルの規模の宅地分譲開発の場合、一般的に造成から販売終了までの期間は約四か月が適当であり、販売代金は、販売される度に収入されることから、実売までの期間を平均的に二か月と算定したことが認められること、〈書証番号略〉によれば、吉岡は、資本利子率を年利一二パーセントと比較的高めに設定していることが認められること(この点、原告は、一二パーセントの利子率は、金利にしては考えられない程の高い率であり、意味不明である旨主張するが、〈書証番号略〉、証人吉岡の証言及び弁論の全趣旨によれば、分譲開発における不動産業者の借入金の利息等を中心に考慮して算定した利子相当分であると認められる。)、原告代表者尋問の結果によれば、本件分譲地の場合昭和六二年五月一一日の原告が本件(一)及び(二)の土地を購入したときから遅くとも一月後には、本件分譲地の全てを完売していたことが認められること、〈書証番号略〉によれば、確かに、本件分譲地の代金支払は、概ね同年八月から一一月までの間になされ、最も遅い分譲地は昭和六三年二月まで代金支払が続いていたことが認められるが、本件分譲地の代金支払が昭和六二年八月以降になったのは、本件の一連の法に基づく届出手続きが遅れ、同月二八日に本件勧告がなされて、ようやく最終的な本件分譲地の各代金が確定したためであると推認されること、〈書証番号略〉に記載された期間も、それぞれの事業期間が重複するものであり、単純に加算すべきものではなく、また、0.1ないし一ヘクタールと幅広く設定した開発規模の目安であり、本件分譲地のようにやや小規模な宅地造成開発にはそのまま適用することはできないと考えられることなどを考慮すると、右吉岡の判断は、未だ、不動産鑑定士としての裁量の範囲内というべきであり、不合理であるといえない。

(3) 吉岡鑑定の取引事例比較法について

ア 時点修正について

原告は、吉岡鑑定がいずれも取引事例についての時点修正をしていないのは不合理である旨主張する。しかしながら、〈書証番号略〉によれば、いずれも本件分譲地に近い新潟県地価調査基準地である〈番地略〉所在(新潟(県)三六)及び〈番地略〉所在(新潟(県)三八)の各土地の昭和六〇年から六一年にかけての地価上昇率はいずれも零パーセントであったこと、新潟(県)三八の土地の昭和六一年から昭和六二年にかけての地価上昇率も零パーセントであったことが認められ、また、〈書証番号略〉によれば、地価公示標準地である〈番地略〉所在(新潟三一)の土地の昭和六〇年から六一年にかけての地価上昇率は0.5パーセントであったことが認められる。右事実によれば、吉岡鑑定が検討したすべての取引事例地について時点修正をしなかったことも、未だ、不動産鑑定士としての裁量の範囲内というべきであり、不合理とはいえない。

これに対し、原告は、同市姥ケ山二丁目の新潟県地価調査基準地(新潟(県)三六)は、昭和六二年に場所が変更されているところ、旧基準地と新基準地は、同一町内にあるところから、その地価はほぼ同一であるとした上で、これらの地価調査基準価格が昭和六一年から昭和六二年にかけて一八パーセントも上昇している旨主張する。しかしながら、〈書証番号略〉によれば、新基準地においては、その東側において幅員六メートルの舗装された幹線市道に接しており、未舗装私道の中間にある旧基準地とは道路条件が全く異なるほか、画地条件(旧基準地は北向き、新基準地は東向き)、交通接近条件などにおいて新基準地の方が優れていることが認められ、旧基準地と新基準地の地価が同一であると考えることはできないから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、特に取引事例eに関し、同事例地の三軒隣の〈番地略〉外五筆の土地が昭和六二年七月一八日に一平方メートル当たり八万二一六五円で売買されていることを根拠に挙げ、吉岡鑑定が時点修正をしなかったことは不合理である旨主張するが、〈書証番号略〉によれば、右土地売買の立会人が原告であることが認められるほか、取引価格、標準化による標準価格の合理性を裏付ける証拠がないことを総合すると、原告の右主張も直ちには採用できない。

イ 取引事例aについて

原告は、同事例が亀田バイパスの西側約七〇メートルの至近に位置して交通による騒音の影響が著しいから、吉岡鑑定が別表二記載のとおり同事例の地域格差の環境項目をマイナス二パーセントに留めたのは、不当である旨主張するところ、前記(二3(四)(2)、4(四)(1))のとおり、伊藤鑑定はこれをマイナス七パーセント、勝俣鑑定はこれをマイナス一〇パーセントと評価している。しかしながら、〈書証番号略〉の土地価格比準表によれば、同表が示す最大格差が五パーセントであること、前記(二2(四)(1))のとおり浅妻鑑定も同事例地における騒音の影響をマイナス二パーセントとしていることに鑑みると、右吉岡の判断は、未だ、不動産鑑定士としての裁量の範囲内というべきであり、不合理とはいえない。

ウ 取引事例bについて

原告は、吉岡鑑定が別表二記載のとおり同事例地を道路負担のある土地と誤解し、最初に道路部分を差し引き、地積が425.73平方メートルの不整形地としているのであるから、売買代金が三三〇〇万円の同事例地の一平方メートル当たりの単価は、七万七五一四円としなければ不合理であるところ、道路込みの地積である489.38平方メートルを前提とした一平方メートル当たりの取引価格を使用しており、同事例の取引価格について致命的な瑕疵がある旨主張する。しかしながら、証人吉岡の証言によれば、吉岡は、別表二の作成に際し、同事例地の面積及び不整形の表示を誤ったに過ぎないこと、吉岡は、現地調査をした結果、整形な土地であることを確認し、取引価格の算定の根拠である面積も正確な数値に基づいて評価していることが認められる。

これに対し、原告は、吉岡鑑定が別表二のとおり同事例の標準化補正の規模形状項目をマイナス四パーセントとしていることは、吉岡がやはり取引事例bの土地を不整形地と理解した結果であるとも主張する。しかしながら、証人吉岡、同勝俣の各証言、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、吉岡鑑定の右規模形状項目は、同事例地が奥行大、規模大の土地であるため、これを二分割した場合に起因する標準化補正であるとも考えられるから、右主張は理由がない。

また、原告は、同事例地は、間口約二〇メートル、奥行約二四メートルの土地であり、標準的使用と同等ないし近似の土地利用を行うには、奥行大、規模大であるので、五ないし六メートルの道路を導入する必要があり、勝俣鑑定は、幅員五メートルの私道を導入した際の道路負担率から、規模、奥行に起因する標準化補正をマイナス二五パーセントとしている旨主張するが、かような私道を同事例の場合に設置する必要があるか疑問であり、右原告の主張は直ちには採用できない。

さらに、原告は、取引事例bが小売価格ではなく、卸売価格である旨主張するが、同事例地は、アパートとして利用されているのであり、卸売価格であると認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり、吉岡鑑定の取引事例bにおける評価に不合理な点はないというべきである。

エ 取引事例cについて

原告は、同事例地は、間口一〇メートル、奥行二〇メートルと奥行の長い使い勝手の劣る住宅地であるのにこの点の評価がなされていない旨主張するが前記(二2(四)(1)、3(四)(2))のとおり、伊藤鑑定及び浅妻鑑定ともこの点についての補正をしていないことに鑑みると、この点は、未だ、不動産鑑定士としての裁量の範囲内というべきであり、不合理とはいえない。

オ 取引事例dについて

a 原告は、同事例が土地建物一括取引であるにもかかわらず、吉岡鑑定が建物の配分について何ら明らかにせず更地として取り扱い、さらに建付地補正がなされていないのも不当であるから、同事例地の取引価格が正しく認定されていない旨主張する。

しかしながら、証人吉岡の証言によると、同事例は、土地取得者に対するアンケートを基に作成されたいわゆる事例カードによって把握されたものであること、右事例カードには、配分法によって算出された土地のみの価格が記載されていたこと、吉岡は、右土地の価格が他の取引事例と比較して妥当な価格であると評価して本件の鑑定評価に際して取引事例として採用したことが認められる上、弁論の全趣旨によれば、建付地補正とは、建物の敷地を評価する際にその土地を最有効使用の状態にするために建物を取り壊す必要があるとき、その取壊しに要する費用相当分を更地価格から減価するものであることが認められるところ、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、同事例地上の建物は同事例の取引当時築後四年足らずしか経過していないことが認められ、建物の取壊し等を想定する必要性はなかったといえるから、右原告の主張は理由がない。なお、原告は、吉岡鑑定に同事例における土地建物一括の取引総額、所在建物の構造、規模、用途、建築年月日の表示、配分の仕方の明示がない点についても批判するが、右記載がないからといって鑑定の結果が不合理であるとはいえないことは明らかである。

また、原告は、同事例における土地建物一括の取引総額が一〇〇〇万円であり、昭和五八年一二月に建売住宅として売買された際の同事例の土地建物の代金が一五八六万円であったのであるから吉岡鑑定のとおり同事例地の取引価格を約七〇〇万円とすると、右土地上の建物価格が著しく低廉なものとなってしまい、不合理であり、そもそも同事例地の取引価格の認定は正しくなされていない旨主張するが、同事例における土地建物一括の取引総額が一〇〇〇万円であったと認めるに足りる証拠はなく、原告の右の主張は、理由がない。

b また、原告は、同事例の直前の取引は、競売によるものであり、そのわずか二週間後に同事例の取引がなされたものであるから、吉岡鑑定が取引事例として採用したのは誤りであった旨主張し、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、右競売の事実を認めることができる。

しかしながら、前記のとおり、同事例における土地建物一括の取引総額を認めるに足りる証拠がなく、また、〈書証番号略〉によれば、昭和五八年三月三日、同事例の土地を含む分筆前の新潟市姥ケ山字大日南田一三〇番地一の土地が一平方メートル当たり約五万三〇三〇円で売買されたことが認められること、前記のとおり、同事例の取引価格は一平方メートル当たり六万九三〇七円であることに鑑みると、同事例が競売直後の売買であったことのみをもって、取引事例として採用したことが誤りであったとは直ちにはいい難い。

c さらに、原告は、同事例地の接面道路は、通り抜け道路であったにもかかわらず、吉岡鑑定が「行き止まり奥」として処理したのは不当であるとも主張する。

しかしながら、〈書証番号略〉及び証人吉岡の証言によれば、吉岡鑑定において表示された「行き止まり奥」とは、同事例地の東方向から排水路を越えて同土地に向かって接面道路を進行して行くと、同土地がその正面に行き当たる位置に存在するということを意味するものであることが認められ、原告の主張する通り抜け道路であることと矛盾していないから、右原告の主張も理由がない。

カ 取引事例eについて

a 原告は、同事例地は、その取引当時、行き止まり道路の中間地点に面していたのにもかかわらず、これによる影響についての補正がなされていない旨主張する。しかしながら、この点につき、吉岡鑑定は、マイナス二パーセントの補正をしていること、浅妻鑑定では、同事例でこの点についての補正をしていないことなどの事情に鑑みると、未だ不動産鑑定士としての裁量の範囲内というべきであり、不合理とはいえない。

b 原告は、同土地の買主は隣接所有者であったから売買価格は適正ではなかった旨主張する。しかしながら、〈書証番号略〉によれば、同事例地は、地域内の標準的画地であり、特に隣接所有者でなければ取得できなかった事情も窺われないから、吉岡鑑定がこの点についての補正をしなかったことも、未だ不動産鑑定士としての裁量の範囲内というべきであり、不合理とはいえない。

c 原告は、亀田バイパスに接近しているにもかかわらず、騒音による影響についての補正がなされていないと主張するが、浅妻鑑定もこの点についての補正を行っておらず、この点についても、未だ不動産鑑定士としての裁量の範囲内というべきであり、不合理とはいえない。

キ 取引事例fについて

a 原告は、同事例地の買主は、同事例地と併せてその東側に隣接する〈番地略〉の土地(宅地・130.63平方メートル、以下「七三番一六の土地」という。)も購入していたものであること、同事例地及び七三番一六の土地の南側には私道が敷設されていることから、吉岡鑑定は事実を誤認しており、吉岡鑑定が認定した同事例地の取引価格は誤りであった旨主張する。しかしながら、〈書証番号略〉によれば、同事例地と七三番一六の土地の売買契約書は別個に作られていることが認められること、弁論の全趣旨によれば、吉岡鑑定は、同事例地の面積263.00平方メートルから私道の面積を33.4平方メートルと認定してこれを控除し、同事例地の取引価格である一六三〇万円を除して同事例地の取引価格を算出していることが認められることに照らせば、吉岡鑑定に原告主張の事実誤認はなかったというべきである。

b 原告は、同事例地の接面する私道は、昭和六〇年八月の取引時点では未舗装であり、その後、右私道に接面する宅地の所有者が資金を出し合って舗装工事をしたもので、同事例地の購入者は七一万円を支出して同事例地の土留め、盛土工事をしているから、吉岡鑑定が右事情について全く補正をしなかったのは誤りであった旨主張するところ、前記勝俣鑑定の内容に証人勝俣の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の右事実を認めることができる。また、原告は、同事例地は行き止まり道路の一番奥に接面する土地であると主張するところ、前記勝俣鑑定の内容に〈書証番号略〉及び証人勝俣の証言を総合すると、原告主張の右事実を認めることができる。

したがって、吉岡鑑定が右事情を取引fの標準化補正の際に考慮しなかったことに、疑問の点もなくはないといえる。

(二) 浅妻鑑定

原告は、浅妻鑑定について、同鑑定が取引事例比較法で採用した取引事例は、いずれも吉岡鑑定が取り上げたものばかりであり、しかも評価の過程は相違しているにもかかわらず、本件対象地の評価額のみ一致していることから判断すると、浅妻鑑定は吉岡鑑定の追従鑑定に過ぎず、信用性に乏しい旨主張する。

確かに、前記認定の事実によれば、吉岡が吉岡鑑定において取引事例bを記載する際に、誤って記載したという面積が、浅妻鑑定における同事例(浅妻鑑定の取引事例C)中にも記載(但し、浅妻鑑定では、約四二六平方メートルとの記載がなされている。)されていることが認められるが、浅妻鑑定における鑑定経過に不合理な点は認められず(被告は、浅妻鑑定も原価法を考慮していないと主張するが、前記(二2)認定の浅妻鑑定の内容によれば、取引事例比較法のみならず、原価法等の適用も行って、総合的に勘案して鑑定評価したもので、結果的に積算価格が反映されてなかったに過ぎないと考えられるから、原告の右主張は理由がない。)、浅妻鑑定に瑕疵があるとは認められない。

3  権利の相当な価額の算定についての過誤の有無

指導係の係員が本件対象地の権利の相当な価額を算定する際、吉岡鑑定、浅妻鑑定及び伊藤鑑定を比較検討したこと、吉岡鑑定及び浅妻鑑定が本件分譲地の周辺事例を採用し、これを参照して鑑定評価しているのに対し、伊藤鑑定は、本件分譲地から比較的遠方に離れた土地を多く採用してこれを参照していること、指導係の係員は、伊藤鑑定が採用した新潟市京王所在のいわゆる京王団地所在の取引事例、同市長潟二丁目所在の取引事例など本件分譲地と地域的要因が大きく異なり、かつ価格水準の高い地域の取引事例を多く採用していたことなどを考慮して伊藤鑑定を排斥し、吉岡鑑定及び浅妻鑑定に依拠して本件対象地の権利の相当な価額を算定したこと、指導係の係員は、本件対象地の権利の相当な価額を基に本件分譲地の各画地のそれぞれの権利の相当な価額を算定したことは、前記(一5)のとおりである。

吉岡鑑定及び浅妻鑑定と伊藤鑑定を比較した場合、その違いは、取引事例比較法において採用された取引事例が、伊藤鑑定においては新潟駅南部の比較的広範囲から選ばれているのに対し、吉岡鑑定及び浅妻鑑定では本件対象地と同じ新潟市姥ケ山二丁目から選ばれている点にある。その違いは、前記(二)のとおり、伊藤鑑定が本件対象地の近隣地域を、新潟駅の南方約3.2キロメートルと中心部に近く、また交通の便もよいことなどの理由から、駅南地区にあっては、新潟市京王所在の京王団地等の各地と遜色がないと評価しているのに対し、吉岡鑑定及び浅妻鑑定が同地域を、場所的には新潟市街地の南方の外れにあり、介在農地も未だ残され、宅地の中にも空地が多く、小規模開発が介在しているなどと評価している点にあると考えられる。そこで、取引事例の選択及び地域要因の分析という観点から、各不動産鑑定の合理性の有無を検討してみる。

原告代表者尋問の結果、証人白川及び同吉岡の各証言によれば、京王団地は、大規模宅地開発事業により造成された地域で、かつ、当初から下水道も完備され、区画等の整然と配置された熟成度の高い住宅地であり、長潟二丁目周辺地は、弁天線に近く、新潟駅や市街地への接近条件、生活環境条件及び住宅地としての熟成度が優れている地域であること、これに対し、本件対象地の含まれる姥ケ山二丁目の地域は、小規模開発が個別的に行われ、人家の密集度もさほどではなく、すぐ南側の市街化調整区域内等で田等の農地が広がっている熟成度の低い地域であるということができる。

そうすると、指導係の係員がかような熟成度のより高い京王団地や長潟二丁目周辺地と本件対象地周辺地とが同質であると評価し、京王団地や長潟二丁目周辺地などから広く取引事例を採用して、比準価格を算定している伊藤鑑定を排斥して、本件届出価格の権利の相当な価額を認定した点に不合理はなかったというべきである。

他方、吉岡鑑定にも、前記(2(一)(3)b)のとおり、その取引事例比較法において採用した取引事例の標準化補正の内容の一部に疑問な点がなくはないが、指導係の係員は、前記(一5)のとおり、吉岡鑑定の内容を検証するために浅妻鑑定を徴して、指導係の係員の認定した本件分譲地の権利の相当な価額の正当性を確認しているのであり、その浅妻鑑定の内容に不合理な点がないことは前記(2(二))のとおりであるから、指導係の係員が行った本件分譲地の権利の相当な価額の算定に過誤があったとはいえないというべきである。

これに対し、原告は、勝俣鑑定を根拠に吉岡鑑定及び浅妻鑑定の内容が不合理である旨主張する。しかしながら、前記(二4)のとおり、勝俣鑑定は、本件対象地の近隣地域が住宅地として熟成している旨評価し、その取引事例比較法において、新潟市弁天橋通三丁目及び長潟二丁目の土地を取引事例として採用しているが、長潟二丁目の土地及びこれに隣接する弁天橋通三丁目の土地が、本件対象地周辺の姥ケ山二丁目の土地と同等であるといえるか疑問である上、勝俣鑑定の内容について合理性が認められるとしても、指導係の係員としては、二つの不動産鑑定を徴し、本件勧告時に存在した三つの不動産鑑定を比較検討した上で、本件分譲地の権利の相当な価額の算定を行っており、調査義務を尽くしたというべきであるから、原告の右主張は、理由がない。

4  本件届出価格を「著しく適正を欠く」と判断したことについての過誤の有無

指導係の係員は、本件分譲地の各区画の権利の相当な価額から、被告において一律に適用している基準に基づき、本件分譲地の各区画の有効宅地部分の許容限度額を別表一の「勧告額」欄括弧内記載のとおり、一平方メートル当たり八万二三五六円から八万九五九七円と算定した上、本件届出額が右限度額を超え、著しく適正を欠くものであると判断したことは前記(一4)のとおりである。

(一) 原告は、本件分譲地の仕入価格と本件勧告にかかる価格を比較し、本件届出価格が適正である旨主張する。しかしながら、法一一条は、土地の投機的取引及び地価の高騰が国民生活に及ぼす弊害を除去し、かつ、適正かつ合理的な土地利用の確保を図るため、全国にわたり土地取引の規制に関する措置の強化が図られるべきであると規定しており、これは、行政が価格及び利用目的等から審査を行うことで土地取引について直接介入し、土地の投機的取引及び地価の高騰を未然に防ぐことを目的としているものと考えられ、かような法の趣旨に鑑みれば、売買等の契約にかかる価格そのものが審査対象にされているのであって、審査の結果、「著しく適正を欠く」ものではないとした価格によって事業者に一定の利益を保証するものではないから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、本件分譲地の仕入の段階における届出において、宅地分譲目的であることが明記されていたにもかかわらず、法二四条に基づく勧告がなされなかったが、分譲時の届出額が高額すぎるのであれば、購入時の価格も高額なものとして勧告がなされてしかるべきであったとも主張するが、購入時に勧告しなければ、分譲時に勧告することができないとの根拠は何ら存しないから、原告の右主張も理由がない。

(二) 原告は、本件分譲地については、初回の売り出し広告で全画地に買主がついたから、届出価額は、「著しく適正を欠く」ものではなかった旨主張する。しかしながら、土地の需要が多ければ、購入希望者は、土地の価格が権利の相当な価額に照らし著しく適正を欠く場合でも取引をすることがあり得るのであり、前記のような法の趣旨に鑑みれば、買主が直ちに決まったことのみをもって直ちに、届出価額が「著しく適正を欠く」ものではなかったとはいい難い。

(三) 原告は、法が取引規制を行っている目的は、投機的取引を排除することにあり、原告に投機目的がなかったにもかかわらず、本件勧告をしたのは法の趣旨に反し、違法であった旨主張する。しかしながら、前記((一))のとおり、法は、行政が価格及び利用目的等から審査を行うことで土地取引について直接介入し、土地の投機的取引及び地価の高騰を未然に防ぐことを目的としており、したがって、当該土地取引に投機目的がなくとも、権利の相当な価額に照らし著しく適正を欠く場合には、それが地価の高騰の原因となり、また適正かつ合理的な土地利用を妨げるものと評価され、規制の対象となるというべきであるから、右原告の主張は理由がない。

(四) 原告は、株式会社石井建設が昭和六二年五月二六日、〈番地略〉の土地の売買について、取引予定対価を一〇万四四七八円とする旨の事前確認申請を被告に対して行ったところ、同年九月三日付けで法二四条一項一号に該当しない旨を確認しているにもかかわらず、本件分譲地についてのみ勧告をしたのは不公平であるとも主張するところ、〈書証番号略〉によれば原告主張のとおりの申請及び確認がなされたことを認めることができる。しかしながら、長潟二丁目周辺地域は、本件分譲地と地域的要因が大きく異なり、住宅地としての成熟度も一般的に高いと考えられることは前記(3)のとおりであり、また、各分譲地の個別的要因についての検討をすることなく一概に取引価格の比較はできないと考えられることに照らせば、本件分譲地と石井建設の取引事例についてその取引価格の許容限度額に差があったとしても必ずしも不公平とはいえず、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、日東土地株式会社が昭和六一年、〈番地略〉外三筆の土地を、一坪当たり平均して約三一万円で分譲している例を挙げ、本件届出価格が著しく適正を欠くものではない旨主張するところ、〈書証番号略〉によれば、原告主張のとおりの分譲がなされたことが認められる。しかしながら、右分譲地は、原告が自認するとおり分譲面積が二〇〇〇平方メートル未満の土地であり、法二三条の適用される事案ではなく、したがって、法二四条一項一号の勧告もなされていないものであり、また、各分譲地の個別的要因についての検討をすることなく一概に取引価格の比較はできないと考えられることに照らせば、本件届出価格が著しく適正を欠くものではないとの根拠にはなり得ないものというべきである。

したがって、指導係の係員が本件届出価格を、権利の相当な価額に照らして著しく適正を欠く場合と判断したことに過誤があったとは認めることはできないというべきである。

第四結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、その余について判断するまでもなく、理由がないことが明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官太田幸夫 裁判官戸田彰子 裁判官永谷典雄)

別紙物件目録〈省略〉

別紙二ないし五〈省略〉

(別表一)

区画番号

譲受人

譲渡人

面積

(単位:m2)

届出に係る予定対価の額

勧告額

1

平野富雄

(株)甲山

264.54(219.40)

22,000,000円〔83,184円/m2〕

(100,274円/m2)

19,657,581円〔74,308円/m2〕

(89,597円/m2)

2

尾崎信紘

(株)甲山

240.50(201.50)

18,910,000円〔78,648円/m2〕

(93,847円/m2)

17,405,167円〔72,370円/m2〕

(86,378円/m2)

3

土田久弥

(株)甲山

175.75(147.25)

13,820,000円〔78,643円/m2〕

(93,854円/m2)

12,719,160円〔72,370円/m2〕

(86,378円/m2)

4

大木雪人

(株)甲山

165.39(138.57)

13,000,000円〔78,649円/m2〕

(93,816円/m2)

11,969,399円〔72,370円/m2〕

(86,378円/m2)

5

金田稔

(株)甲山

181.30(151.90)

14,250,000円〔78,645円/m2〕

(93,812円/m2)

13,120,818円〔72,370円/m2〕

(86,378円/m2)

6

佐藤孝

(株)甲山

175.74(140.52)

13,130,000円〔74,715円/m2〕

(93,439円/m2)

12,137,836円〔69,067円/m2〕

(86,378円/m2)

7

沖野健司

(株)甲山

164.74(105.82)

9,620,000円〔58,396円/m2〕

(90,910円/m2)

9,140,519円〔55,484円/m2〕

(86,378円/m2)

8

渡辺修一

(株)甲山

221.99(183.75)

17,790,000円〔80,160円/m2〕

(96,817円/m2)

16,019,876円〔72,164円/m2〕

(87,183円/m2)

9

鈴木邦明

(株)甲山

168.35(141.05)

12,370,000円〔73,478円/m2〕

(87,700円/m2)

11,616,313円〔69,000円/m2〕

(82,356円/m2)

10

加藤マツ

(株)甲山

197.39(165.38)

14,300,000円〔72,461円/m2〕

(86,468円/m2)

13,620,035円〔69,000円/m2〕

(82,356円/m2)

11

大平剛

(株)甲山

198.32(166.16)

14,580,000円〔73,507円/m2〕

(87,747円/m2)

13,684,272円〔69,000円/m2〕

(82,356円/m2)

12

杉浦元治

(株)甲山

152.07(127.41)

10,950,000円〔72,007円/m2〕

(85,944円/m2)

10,492,977円〔69,000円/m2〕

(82,356円/m2)

13

荒井勇夫

(株)甲山

178.89(149.88)

13,140,000円〔73,501円/m2〕

(87,671円/m2)

12,343,517円〔69,000円/m2〕

(82,356円/m2)

14

松原一夫

(株)甲山

250.95(198.40)

17,300,000円〔68,940円/m2〕

(87,198円/m2)

16,339,430円〔65,110円/m2〕

(82,356円/m2)

(注1)面積の欄の( )内は、私道部分を除いた有効宅地部分の面積である。

(注2)予定対価の額及び勧告額欄の〔 〕内は私道部分を含む全体面積の単価であり、

( )は私道部分の評価をゼロとした、有効宅地部分に係る価格審査上の単価である。

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